つめたいよるに

つめたいよるに (新潮文庫)
静かで穏やかな物語を集めた、江國香織氏の初期短編集。
かなり短い物語が多いが、江國氏特有の透明感があり繊細な世界観はすでにどの作品からも感じられる。特に印象的だった作品について。

  • 草之丞の話

語り手の「ぼく」の父親が実は幽霊の「草之丞」だというファンタジー要素のあるお話だが、それをあまり感じさせない。
優しい一家族の風景のような印象があり、少し切ない結末ながら全体的に温かく、ふんわりした雰囲気の物語。
武士然とした草之丞と、頼りないけれど一途な「ぼく」の母親が良かった。

  • とくべつな早朝

クリスマスイブの夜、コンビニでバイトする大学生の男の子のお話。
ごく普通の日常的なお話だが、最後は意外で爽やかで読後感がいい。
クリスマスの恋人達を描いた如何にもなラブストーリーとは違うけれど、こういうのもいいなと思う。
さりげなくて甘酸っぱい、そんな恋の始まりの予感がうまく描かれている。


色々な話が楽しめ、それぞれ平易な文章で読みやすい割に完成度が高く、質の良いショートムービーを連続で見ているような印象がある。