本当はちがうんだ日記 

本当はちがうんだ日記
歌人穂村弘氏が描く、ちょっと不思議で力の抜けた日常のあれこれ。
本書で特に好きな話を。

  • 愛の暴走族

自分の留守中、元恋人が合鍵でこっそり自室に入って金魚のえさだけ足して帰っていったという話を始め、愛ゆえの暴走例が幾つか紹介されている。
可笑しいけれど笑ってばかりもいられない。
自分がされたら怖いのが半分、自分もやらかしそうで怖いのが半分である。
多くの人が恋をした時や失恋した時は「ちょっと変」になる気がする。
それまで知らなかった自分の一面を知ることも恋の醍醐味かもしれない。

  • ベティによろしく

アンティークショップで1904年に外国でやりとりされたクリスマス・カードを購入し、書いた人も貰った人ももうこの世に居ないのに、優しい気持ちの込もったカードだけが手元にあることに思いを馳せる一篇。
その「くらくら」感はなんとなく分かるような気がする。
美術館などで、古い古い記録や書簡に残された遠い昔の人の筆跡を見るときの不思議な気持ちに似ている。
文字は人間よりずっと長い時間を越える。
そして文字に託された思いも。