なくしてしまった魔法の時間

なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)
美しい日本語で語られる、少し不思議で懐かしい童話集。
安房直子氏のコレクション全7冊の1巻で、比較的初期の作品を収録。収録作品の中から、特に好きな話を。

  • きつねの窓

山で道に迷った「ぼく」が、一面の桔梗の花畑の中に「そめもの、ききょう屋」を見つける。
きつねの店員いわく、桔梗で青く染めた指で四角い窓を作ると、会いたいひとが見えるのだという。
桔梗で青く染めた指で、というのがいいなと思う。ちょっとした魔法や、不思議なおまじないのようで。
次の日、ぼくがもう一度そのお店のところへいくと、そこには花畑もお店も何もないというのもよかった。


子供の頃は本当に、一度は行けた素敵な場所が沢山あったような気がする。空き地や公園や野原やお花畑など。
幼かったから、単にその場所への道順を忘れただけかもしれないが、同じように辿ったはずが何も無いのを見ると、不思議で夢を見たような気がしたものだった。
それを思い出すから、こういう終わりは好きだ。


童話はけして子供だけのものではないと、このお話のように良質な童話作品を読むとしみじみ思う。
むしろ年齢を重ねた今のほうが、その優しい世界が心に染みるような気がする。