トニー滝谷 / 監督 市川隼

トニー滝谷 プレミアム・エディション [DVD]
村上春樹氏の短編小説(『レキシントンの幽霊』所収)の映画化。
原作が好きで見たが良かった。小さく流れる音楽も美しい。


小説も淡々としたお話だけれど、この映画も実に淡々としている。
でも妙に印象に残る作品である。
たとえば時々、俳優がナレーションの文章を呟くところなど。
ひとりで過ごす少年時代のトニー滝谷の「特に淋しいとは思わなかった。」とか。
なんだか舞台演劇のようで、ふっと引き込まれた。


なかでも印象的だったのが上の台詞なのだが、実際慣れていれば、孤独であることについて何も感じなくなる気はする。
そういうものだと過ごせてしまうというか。


ただ大切な人と共に過ごし始め、ひととき孤独を忘れられるようになると、とたんに孤独は怖いものになり、淋しいという気持ちが生まれるように思う。
誰かと共に過ごす幸せは、その人を失う怖さと表裏一体である。


孤独に慣れていたトニー滝谷が、一人の女性と出会うことで変わってしまうところが切なくも良かった。


ラストが原作と異なり、個人的には原作の方が好きだが、映画の方が救いがあるかもしれない。