猫町 / 萩原朔太郎

猫町
張り詰めた美しさの漂う、猫ばかりの町。
束の間に詩人が目にしたその光景の描写が幻惑的で怖い。
猫が現れるまでの緊迫した描写は神経症的でもある。


タイトルからはメルヘンというか、もう少し可愛らしい物語を想像していたが、むしろ「世にも奇妙な物語」にありそうなお話。
猫嫌いな人ならもっと怖いかもしれない。


ただこの作品における怖さは、猫町そのものよりも現実と幻想の境目の不確かさにあるのだろう。
胡蝶の夢の話も途中引用されるが、夢の中の自分・夢から覚めた自分、どちらが本当の自分なのか?という哲学的な問いをも含んでいる。
意識が回復した途端いつもの町に帰ってきた主人公は、それでも猫町が幻ではなかったと固く信じている。
夢でも錯覚でも、それを信じる人にとっては現実になるのかもしれない。


感想から逸れるが、京都の北白川にこの小説をイメージして作られたというカフェがある(右リンク先に詳細あり)。
その名も「猫町」。以前訪れたことがあるけれど、ちょっとレトロで雰囲気のある良いお店だった。