コッペリア / 加納朋子

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人形に恋をした青年の前に、人形そっくりの女が現れる。
自分が本当に求めているのは人形か女か分からないまま、女を追い始める青年。
青年、女、女のパトロン、人形師…何人もの人間の過去や思惑が交錯して物語は進む。


雑誌の書評から惹かれて手に取ったが、いくつもの伏線が収束していく様にはため息が出そうになった。小説ならではの文章トリックも見事。
スリードを誘う部分と真実につながる伏線、両方を作者は丁寧に描いていく。
あれ?と思いながらも読み進めていくうち、次第に物語の全体像が見えてくる。
これは漫画やドラマ、映画では面白さが半減するかもしれない。


子供の頃、ギリシャ神話を読んで一番印象的だったのが本作冒頭でも引用されているピグマリオンの話だった。
自分の作った人形に恋をした男。子供心に何か奇妙な官能を感じたのだろうか。
人形に執着を持ったことはないが、このような設定に何か惹かれるものがある。
現実から足を踏み外すような恋だからか、報われない恋だからか。その両方かもしれない。


ただ、この物語はただの悲恋では終わらない。その先にある未来は暗いものではないと予感させる、温かい結末であり、読後感も良かった。