きみはポラリス

きみはポラリス
「恋愛」をテーマにした短編集。
幸せカップルのほのぼのした物語もあるにはあるが、恋愛のややこしさを感じる物語も多い。特に好きな話について。

  • 永遠に完成しない二通の手紙&永遠に続く手紙の最初の二文

前者は大学生「寺島」と「岡田」(長い付き合いの友人)の恋文をめぐる押し問答、後者が高校時代の彼らの物語。
どちらも笑えつつ、ちょっと切ない読後感がある。
なまじ親しく、近しい友人への片思いは、相手がこちらを友人として信頼し無防備であるほど切ない気がする。

  • 春太の生活

一緒に暮らしている最愛の女「麻子」が、この頃別の男を家に招き入れる。
当然気に食わない「春太」の一人語りで物語は進む。
こんな設定ながら、全体的にほのぼの。麻子思いの春太が健気でいじらしい。
似た設定の漫画を読んだことがあるが(『まっすぐにいこう。』これも好き)、どうもこの手の設定には弱い。
春太といい、純粋な想いを一途に相手に向けてくる存在は愛しく思える。

  • 冬の一等星

8歳の時のある経験から、車の後部座席で眠るようになった「映子」の回想。
状況自体は誘拐だが、その出来事は今も彼女を守っている。
恋愛モノなのかは微妙だが、人を信じることの温かさを感じる物語である。
ただちょっと哀しいのは、かすかに死の匂いが漂うせいか。
見知らぬ男と手をつなぎ見上げた夜空と、教えてもらった星座と、今はもういないかもしれないその男。
そんな映子の記憶は、美しいけれど儚く、冬の空のように透明な印象を受ける。