金髪の草原(文庫『四月怪談』収録)


意識が大学時代に戻ってしまった老人と、彼の家にヘルパーとしてやってきた少女。
少女の片恋のエピソードを挟みつつ、夢と現実が入り混じりながら物語は結末へ向かう。


老人という設定ながら、主人公?日暮里歩の外見は青年である。『夏の夜の獏』同様、意識に沿っているのだろう。
彼は純情な大学生に戻り、幸福な夢を見ている。冒頭は彼の視点で、途中から小女なりすの視点が主になり、両方から状況がわかってくる。


二人が汽船を待つ所が独特の詩情があってよかった。そして、
「現実に戻れてよかった あの年表の現実でもそれでも? うん」
という問答は、ここだけ抜き取るとなんでもない言葉だけれど、作中ではぐっとときた。


ずっと自分ひとりで夢を見ていられたらいいけれど、いつかは現実に戻らなければいけない。
当たり前のことだがきつく感じるような時には、より染みる言葉でもある。


淡々としていても、どこか温かい雰囲気は大島さんの作品共通のものだけれど、この作品もそうだと思う。