TVピープル


奇妙な味わいの短編。主人公の「僕」の部屋に侵入してきたTVピープル。彼らはいったい何なのか。得体の知れない不安感を煽るような怖さがある。(以下「」は引用)


TVピープルの侵入を境に、「僕」の周囲に対する違和感が増えていき、一緒に暮らしている妻まで連絡も無く帰りが遅い。
そしてTVピープルが告げる、
「もう帰ってこないよ」「何故って、もうだめだからだよ」。


「僕」は否定する理由をあげようとするが、ついに思いつけない。
この場面は印象的である。
最初は「僕」同様に唐突で訳が分からないと思うけれど、次第に妙にリアリティも感じ、ありそうなことに思える怖さがある。
読み返すと伏線もあって話の構造的に無理がない、というだけでなく。


当たり前のように見える生活も、ささいなきっかけで歯車が狂ったりする。
あるいは前からあったわずかな歯車の狂いが大きくなり、破綻したりする。


本作ではそのきっかけが謎めいたTVピープルで、シュールに見えるけれど。
しかしこのTVピープル、最初は単にちょっと不思議な感じの人々?だが、
「ホテルで使うカード式のプラスティック・キイのような声だった。」
「平面的で、抑揚の無い声が、細い隙間から刃物のようにすっともぐりこんでくる。」
という比喩に、ひんやりとした薄気味悪さを覚えた。


村上春樹氏の比喩はどの作品でも独特で好きだが、なかでも印象に残っている比喩のひとつである。