7月 (『心の家路』収録)


ある大学生の恋愛の始まりと終わりと、その後のお話。毎年今の時期になると読み返したくなる。
主人公と彼女が付き合うまでの経緯など、実際にありそうな感じのラブストーリーである。


漫画家を目指す主人公と女優を目指す彼女は、1回生の秋に付き合い始めるのだが、幸せな時間の中でいつしかすれ違いや不満も生まれてくる。そして互いに夢と現実の間で悩み、焦り始めた3回生の夏、ちょっとした言い争いから別れてしまう。


「なんでいつもおればかり 慰めなきゃならないんだ」
「やさしくして やさしくしてよ」
「つきあってるのに 彼女なのに おれの事好きだって言ったじゃないか」
「なんで やさしくしてくれないの?」
このあたりのモノローグは主人公と彼女の思いが交互に描かれているのだけれど、どうにもならない上手くいかなさが伝わってきてなんだか切ない。


ただそこで終わりではなく、数年後に2人が再会するところまで物語は続く。
別れてからも主人公の言葉に励まされていたことを話し、主人公に優しく出来なかったことを後悔して泣く彼女と、それを見つめる主人公の眼差しにじんとした。


また何かが始まるのか、それともようやく過去の恋にケジメをつけられたのかはあいまいなまま終わるのだけれど、優しい読後感が残る。
傷つけてしまったり、優しくできなかったりで別れてしまった相手と、こんな風に再会できることは現実には多くないと思う。しかしそういう経験がある人ならよけい、心に染みる物語かもしれない。