恋文の技術 (「asta*」隔月連載)

書簡形式で書かれた小説。
主人公守田一郎、その友人や先輩たち、妹、知人の森見登美彦氏、意中の女性…登場人物はやや多いが、彼らはあくまで手紙を通して現れる。
登場人物のキャラクターや人間関係、起こった事件などが徐々に伝わってきて、物語としての文章(手紙ではない地の文章?というか)はないのに、ストーリーらしきものが味わえるところが面白い。


長い間公式ブログで冒頭の一部のみ読んでいたのだが、少し前にようやく掲載誌を入手できたため全部読んでみると、想像以上に笑えた。途中から読み始めたので、よく分からない部分もあるにも関わらず。


たとえば6月号、守田一郎が苦心惨憺して様々な文体・文章をひねり出して恋文を書くという試み。どの恋文も、もし本当にこんな手紙をもらったら女性の十中八九は通報、残りは優しさゆえに見なかったフリをするだろうと思った(最後のややまともな恋文のぞく)。


なかでも、もっとくだけた感じがいいのでは?と思いついて書いた恋文には吹いた。そこはかとなく80年代の香りも漂う、腹立つのに脱力感あふれる文章。
『きつねのはなし』(シリアス)を書いた人が同じ手で書いたとは信じられないくらい可笑しい。落ち込んでいる時に読んだら一瞬そのことを忘れられたほどである。


がぜん今後が楽しみになっていたのだが、公式ブログによれば残り1回で終わりらしい。かなり残念だけれど、単行本でまとめて読むのを心待ちにしている。