きつねのはなし

きつねのはなし
闇から闇へと現れる不吉な狐の面。古い幻燈に映し出されるのは現か幻か。
古都を舞台にした、いつまでも覚めない悪夢。怪談にも似た奇妙な4つの物語。


闇に潜む得体の知れない何かが自分に近づいてくる不気味さ、何か恐ろしい事が起きそうな不吉な予感。
それらを端正な文章で丹念に描き出し、核心となる謎は謎のまま留め置くことで、さらなる薄気味悪さが生まれている。


京都という場所や、神社のお祭りや幻燈、狐の面、竹林、骨董屋など、古風でノスタルジックでありながら、どこか幻惑的・怪奇的な雰囲気も醸す舞台背景や小道具が良く生かされていると思う。
そのせいか、なんとなく民話的な怪談といった印象がある。特に好きな一篇を。

  • きつねのはなし

表題作であり第1話。ナツメさんと須永さん、天城さんの関係や、天城さんの預かったケモノなど、よく分からないままの謎が多いが、想像することで余計不気味さが増してくる。
「私」が少しずつ闇へと引きずられ、大切なものも奪われていく、心がざわざわするような不安や恐怖がよく伝わってきた。
「私」が大切なものを取り返そうとする場面が好きで、とりわけお気に入りの一篇である。


この作品は作者の他作品とのギャップが大きく、笑いを期待して読むと肩透かしを食らうと思う。しかし、自分に限って言えばこちらも充分に面白かった。「面白い」の意味が他作品とは少し異なっていただけで。