海辺のカフカ

海辺のカフカ〈上〉
家出をした15歳の少年が様々な人々に出会い、小さな図書館に身を寄せ、恋を知り、ある森へも足を踏み入れる。
幾つもの謎(或いは仮説)や、平行して進む星野青年やナカタさんのストーリーなど、引き込まれる面白さがある。


印象的だったのは「佐伯さん」。
少女時代に非凡な才能や絶対的なパートナーがいたものの、成長途中で失い、以後半分死んでしまったような女性は度々村上作品に出てくるが、彼女もそうだろう。
彼女が主人公と海辺で語り合う所がよかった。
彼女の歌う「海辺のカフカ」を聞いてみたい。
彼女と大島さんが勤める図書館も、出来るものなら一度訪れたい。


もう一人、好きな人物は「カーネル・サンダーズ」。
ケンタッキーに立っているおじさんは一歩間違うとこんなことをやらかしそうな気もする。
星野青年とのやりとりは結構笑えた。


作品全体の感想は書くことが難しい。
色々な気持ちが生まれてうまく言葉に出来ないからである。
ずっと損なわれ、大切なものを奪われてきた者がそれを取り戻し、再び現実を生きていく。
その過程を物語というメタファーを通して目の当たりにし、自分も彼に思いを重ね追体験することで、そんな言葉ではいえない気持ちが生まれるのだと思う。


なお、この作品についての読者と村上春樹氏のメールのやりとりをまとめた「少年カフカ」もとても面白かった。
少年カフカ