新釈 走れメロス 他4編

新釈 走れメロス 他四篇
表題作の他「山月記」「藪の中」「桜の森の満開の下」「百物語」のリミックス。
装丁もちょっとレトロで色合いが綺麗で、良いなと思った。特に好きな話を。

原作では身代わりとなった友の元へ約束通り駆けつけることで友情を暴君に認めさせるけれど、今作では「あいつはそんなこっぱずかしいことはしない」という友の期待を裏切らないため、主人公は全力で約束を破ろうとする。


読み進むうちに、段々そのひねくれた友情の形に気付き、感動と紙一重ながらやっぱり可笑しくて笑ってしまう。本書で1番笑えた話である。

柔らかい語り口と桜が醸す幻想的な雰囲気から、どこかお伽噺を聞かされているような気持ちになる。


読後は美しい余韻が残る物語なのだけれど、切ないようなやるせないような気持ちにもなる。男と女が最後に交わす会話が、特に。
桜の木の下のもうどこにも帰れない男の姿のイメージが哀しい。


男と女の出会いと別れの場面である、早朝の満開の桜を見てみたくなった。
昼間や夜の桜は何度も見たことがあるが、明け方は見たことが無い。
夜明けの青に浮かぶ桜は、きっと怖いように美しいだろう。


古典のリミックス物はもともと好きであるが、本作もとても良かった。原作の面白さに作者の持ち味が加わり、より楽しい作品になっていると思う。