有頂天家族

有頂天家族
京都を舞台にした、狸と天狗と人間が入り乱れての化かしあったり食われたりの一大抗争。そして固く結ばれた狸一族の絆と、家族愛を描く。


老いらくの恋に身をやつした天狗、そのお相手の半天狗の美女、偉大だった父を失った狸四兄弟、ヅカファンで熱い母魂をもつ母狸、敵対する叔父一族と、主要な登場人物だけでも(殆ど人じゃないけど)結構多い。
登場人物が多いと誰が誰やらわからなくなりがちだが、皆個性が強いため把握はしやすい。


時代設定は現代のようだけれど、子供の頃にわくわくして聞いた昔話のような印象。本当は腐れ大学生や乙女の話の方が好みだったのだが、読んでみると今作もずいぶん面白かった。


主人公たちが狸という設定からしてファンタジー色が強く、「何でもあり」的な天衣無縫な物語展開を味わえる。(次男狸が「偽叡山電鉄」に化ける、というのにかなり意表をつかれた。)


また心情描写も巧みで、狸といえどもその泣き笑う姿に引き込まれ、こちらも笑ったりしんみりしたり、ハラハラしたりする。
四兄弟の末っ子が健気で可愛くて、特に好きになった。出先でちょっと便利な技、というのが本当にそのとおりで受けた。


空飛ぶ納涼船や、風神雷神を呼ぶ扇など、出てくる小道具も独特。
狸たちを「毛玉」と呼ぶ場面が多いのもなんだかツボだった。本当にフワフワでフカフカした丸っこい狸を想像してしまって。


あと他作品とリンクする単語や人物が出てくるのも読んでいて楽しい。「偽電気ブラン」とか、「寿老人」って『夜は短し〜』の李白さんかな?とか。こういうのは隠れたお楽しみっぽくていいなと思う。