辺境・近境

辺境・近境 (新潮文庫)
「旅行は疲れるものであり、疲れない旅行は旅行ではない。」(引用)。
それでも旅を繰り返す村上氏による紀行文を集めた一冊。
目指すはモンゴル高原、瀬戸内海の無人島、ノモンハン、メキシコの町、アメリカ大陸、そして神戸など。
イースト・ハンプトンや、氏の故郷でもある神戸について記した文章は、旅行記というより土地にまつわる随筆に近いかもしれない。


章によって文章のトーンはやや異なるが、個人的には「讃岐・超ディープうどん紀行」をよく読み返す。
香川に行ってとにかくうどんを食べまくるという、うどん好きの私には憧れの旅である。
また作中の色んなお店でうどんを食べる時の描写がいちいち美味しそうなのだ。うどんに大根おろしをかけて食べるお店が出てくるのだが、つい試してしまった(カトキチの冷凍うどんを使って、しこしこした麺に大根おろしをたっぷり、さらに葱と醤油とすだちを加えて食べた。美味しかった)。


この章全体に漂うノンビリ感、ユーモラスな雰囲気もなんだかほのぼのする。
「朝っぱらから石の上に腰をかけてうどんをずるずる食べていると『もう世の中なんてどうなったって構うもんか』という気持ちになってくるから不思議である。」という一文がちょっと笑えて良かった。