村上ソングズ / 共著 和田誠

村上ソングズ
村上春樹氏が思い入れのある曲を取り上げ、訳詩とレビューを記している。
全29曲(内2曲は和田氏選曲・訳詩)、ほぼ1960年代〜1990年代の洋楽である。
私は知らない曲ばかりだったが、読んでいて面白かった。曲を知っていればより面白いと思う。
訳詞も味わいがあり、原曲を聴いてみたくなった。
印象的だったのは次の2曲。

  • 自殺をすれば痛みは消える

「M*A*S*H」という映画(1970)の主題歌だったそうだが、訳詩を読んで村上氏とおなじく心底ぶっとんだ。
「自殺をすれば痛みは消える それがいちばんラクかもね」というフレーズが繰り返され、「するもしないも、あなたの自由。」と結ばれているのだけれど、突き放し加減がクールである。
ダークな歌詞とは裏腹に美しい曲らしい。
「内容のわりに、なんとなく明るい気持ちになれます」というのが村上氏の評だが、ブラック・ユーモア的な飄々とした感じはある。

  • ミス・オーティスは残念ながら

ある婦人がミス・オーティスとランチの約束をしていたが彼女は現れず、召使が「残念ながらお越しになれないそうです、マダム」と伝える、というシチュエーションの曲。
ままある話だが、続く歌詞が風変わり。ミス・オーティスは恋人を撃ち殺し、警察に連行されたが、激昂した群集に木に吊り上げられたのである。
だから「お越しになられない」。
召使の冷静で丁寧な台詞とハードな事情のギャップが何ともいえず可笑しい。
「巧まざるユーモア」という村上氏の評に納得。
メロディーは「ラブソングのように優しく美しい」そうで、それもなんか凄いなと思った。