遠い太鼓

遠い太鼓 (講談社文庫)
村上氏が1986年から1989年の3年間、日本を離れ、ローマ、アテネ、シシリー、ギリシャなどの海外で暮らしていたときのことを綴った旅行記である。
特に好きな章について。(「」は引用)

  • ティタニア映画館の夜は更けて

ギリシャの小島で、島唯一の「ティタニア映画館」にて、ブルース・リーの映画を見ることにした村上夫妻。しかしその映画館がちょっと風変わり。


「見上げてみると、たしかに映画館の天井の四分の一くらいが車のサンルーフみたいにぽっかりと開いていて、そこからまぎれもないオリオン座が見える」。
さらに映画が上映されはじめたら、
「途中でスクリーンの前を猫がのっそりと通り過ぎる。巨大な黒猫である。」


これには村上氏も唖然とするのだが(なんで映画館に猫がいるのか?)、館内の島民たちは誰も驚かない。子供でさえ騒がない。
「たぶん馬とかロバじゃないと驚かないのかもしれない。」にちょっと笑った。
実際見たらびっくりするだろうけれど、こういう映画館も良さそうだなと思う。

  • イタリア駐車事情

イタリアで車を運転するのは相当大変なようだが、かといって公共の交通機関も…というくだりが面白い。


「バスは時々道を間違える。」に始まり、
「運転手はわあわあと言い訳するし(謝らない、言い訳するだけ)」
「きちんと降車ボタンを押していても、(略)きちんとそれを無視して停留所で止まらずに行ってしまう。」だけでも凄いなと思った。


「僕の待っていたバスが運転手ごと行方不明になったりもした。(略)
たぶんバスごとどこかに遊びに行っちゃったのだろうと思う。」
に至っては吹きかけた。なんというか、楽しそうで何よりである。