ファミリー・アフェア

村上春樹全作品(8) 1979〜1989 短篇集 3 [ 村上春樹 ]
好きになれない妹の婚約者と、食事やら挨拶やらで相対するハメになった「僕」、というのがストーリーの中心。独特なジョークや皮肉がやつぎばやに出てくるのが楽しい。


気に入らないとはいえ、「僕」は妹の婚約者に本気で辛辣な態度をとるわけではなく、分かりにくい皮肉やとりとめのない冗談でケムに巻いている印象である(そしてその度に、妹から冷ややかな言葉をもらったり睨まれたりしている)。
「確固としたいい加減な生き方」をしている「僕」の本来の性格もあるのだろうが。


「僕」と妹のやりとり、「僕」と妹と婚約者のやりとり、いずれも絶妙にウイットが効いている。


これが交際相手だと、妹がカジキマグロの前で婚約者と撮った写真を「僕」に見せたとき、「立派なカジキだ」とコメントするところが好きだ。


「僕の性生活なんてささやかなものだよ」「夏を越せないかもしれないくらいさ」
というくだりも(27才で思い出せるだけで26人、思い出せないのが10人ぐらいいるかもしれないという数の女性と寝ていてささやか?という疑問は置くとして)。


そして妹の婚約者はけして悪い人物ではない(むしろ育ちの良い好青年)。でもどうも好きになれないのだ、というあたりが喜劇というか悲劇というか、またありそうな話だなあと思う。


妹が兄にずけずけと物を言うのもいかにもだが、さりげなく互いを思いやっている面ももちろんあることが垣間見えるのも良い。


独特の味わいに、時間を置いて何度も読み返したくなる。