ゆっくりさよならをとなえる

ゆるゆると流れる日常を、淡白ながら味わいのある筆致で描いたエッセイ。全体に漂う穏やかで静かな雰囲気が心地よい。 冬の夜にすることとして「これまで言ったさよならのなかでいちばんしみじみしたさよなら」を決め、「決まったら心の中でゆっくりさよなら…

 女いっぴき猫ふたり

web上での連載をまとめたもの。日記風のエッセイ漫画。 表紙のバクザン先生のような筆文字からも想像できるように、ほど良く力の抜けたゆるゆるなショート・エッセイ集。 読んでて爆笑、というよりくすっと笑える感じ。 入浴中やスパゲッティを茹でている間…

 フロイト1/2 

ある日小学生の少女(梨生ちゃん)と大学生(弓彦君)がたまたま出会い、不思議な提灯を二人で分け合った結果、同じ夢を見るようになる。 10年後、若き社長になった弓彦君と高校3年の梨生ちゃんが再会して物語は展開していく。 どんなに親しい人でも、眠って…

 風の歌を聴け×夏陰

「夏陰」を聞いていて、ふと村上春樹氏の小説「風の歌を聴け」を思い出した。 全く別の作品だけれどBGMに合うように思える。 海に近い街を舞台に、過ぎ行く夏を切なくほろ苦いタッチで描いた「風の歌を聴け」は、夏になると読みたくなる物語である。 また、読…

 村上朝日堂の逆襲

村上春樹氏の2冊目のエッセイ集。 執筆当時の時代を感じる時事・流行的記述もちょこちょこあるが、ほとんどは日々のあれこれや好き嫌い等をのんびりと綴っているので今読んでも楽しい。 印象的だった章について。 小説家の有名度について 村上氏が(当時)街…

 笑う大天使 

名門お嬢様学校の聖ミカエル学園に通う、清らかで上品な3人の乙女。 ある時偶然に互いの逞しく庶民的な本性を知り、親近感と連帯感を深めていく。 そんな彼女達が活躍する学園コメディ。 番外編になるようだけれど、印象的だったのは、ロレンス先生の友人お…

 不思議なマリナー(『空の食欲魔人』収録)

気持ちがトゲトゲしたり滅入ったりした時、川原作品を読むとちょっと心穏やかになれる気がする。 色んなことに対して、まあいーか…なんて思えてくる。 のほほんとしたキャラクター、ほのぼのしたストーリー。そこはかとなく漂うユーモア。 でも意外と泣かし…

 コッペリア / 加納朋子

[rakuten:book:11879532:image] 人形に恋をした青年の前に、人形そっくりの女が現れる。 自分が本当に求めているのは人形か女か分からないまま、女を追い始める青年。 青年、女、女のパトロン、人形師…何人もの人間の過去や思惑が交錯して物語は進む。 雑誌…

 私の美の世界 / 森茉莉

独特の古風な文体で綴られる、日常のあれこれ。 話題は料理にお菓子、雑貨や服や文学、時事問題まで。 漢字使いなど独特で、美しい日本語だなと思った。 初版1968年と結構古いが、今でもおかしくないような鋭い意見の綴られている章も多く、結構読み応え…

 てぬのほそみち 

「てぬ」とは「手抜き」の意。いかにラクチンに「手作り」を楽しむかがコンセプト(?)のコミック・エッセイ。 本書で作ってみようと取り上げられるのは、お菓子にアクセサリーに洋服に…と色々である。 読むだけでも楽しいけれど、実際に自分も作ってみたい…

 アナ・トレントの鞄

映画『ミツバチのささやき』で、アナ・トレントが持っていた鞄が欲しい。そう思い立って、作者は旅に出る。 本書は、その旅の途中で見つけた不思議なもののカタログである。添えられた文も淡々としているが味わい深い。 特に好きなものを。 七つの夜の香り …

 小生物語 

乙一氏のHP上の日記を1冊にまとめたもの。 あとがきいわく、架空の語り手である「小生」が綴る虚実入り乱れた内容らしい。 どこまでが事実でどこからが創作か読者には分からないけれど(さすがに創作だろうと思うものもあるが)、境目が曖昧だからこそ面白…

 Heaven?

駅・住宅地・オフィス街すべてから遠く、何より理想のサービスから遠い、墓地の中にあるフレンチレストラン「ロワン・ディシー(この世の果て)」が舞台のオムニバス形式のコメディ。 淡々としたストーリーながら笑い所が結構あって面白い。 主人公の伊賀君…

 新釈 走れメロス 他4編

表題作の他「山月記」「藪の中」「桜の森の満開の下」「百物語」のリミックス。 装丁もちょっとレトロで色合いが綺麗で、良いなと思った。特に好きな話を。 走れメロス 原作では身代わりとなった友の元へ約束通り駆けつけることで友情を暴君に認めさせるけれ…

 もしもし、運命の人ですか。

恋愛における様々な出来事、場面を時にロマンチックに、時にユーモラスに綴ったエッセイ。 くすりと笑えたり、共感できたり、「うーん、そうかな?」と思ったり、色々な楽しみ方が出来る。 特に好きな章を。 好意の数値化 もし気になる異性の額に、自分への…

 猫町 / 萩原朔太郎

張り詰めた美しさの漂う、猫ばかりの町。 束の間に詩人が目にしたその光景の描写が幻惑的で怖い。 猫が現れるまでの緊迫した描写は神経症的でもある。 タイトルからはメルヘンというか、もう少し可愛らしい物語を想像していたが、むしろ「世にも奇妙な物語」…

 押絵と旅する男 / 江戸川乱歩

列車で出会った、押絵と旅をする老人。 老人が語ったのは、彼の兄の不思議な恋物語だった。 中学生の時に初めて読み、老人の兄だった青年の恋やつれの描写に怖いようなドキドキするような気持ちがしたのを覚えている。 恋の病という言葉があるが、確かに病的…

 500マイル / 河原和音 

電車をからめた物語3篇を収めた短編集。 高校生や大学生の女の子が主人公で、通学電車で見かける男の子への片思いや、サークルで知り合った彼氏との恋、通学で使う駅の駅員さんとの恋を描く。 お気に入りは、高校生の女の子が電車で見かける男の子に片思い…

 エイミー(文庫『だからパパには敵わない』収録)

バレンタインにまつわる、高校生の女の子たちの恋模様を描く。 ひとりの女の子がつぶやく、「ナウシカみたいに特別な女の子になりたかった」という台詞がいいなと思った。 でも、「現実はかっこ悪いことばっかり!」というのも分かるなあ、と。 ドラマチック…

 ハチミツとクローバー / 羽海野チカ 

絵柄の可愛いさと、詩情漂うモノローグが印象的。 全員が片思いという見事な「うまくいかなさ」が読者の古傷を思い出させたり、現在進行形で片思いをしている人の共感を得たりするんだろうなあと思った。 自分は好きだけど相手には思われないという、現実に…

 村上朝日堂

村上春樹氏の最初のエッセイ集。 テイストは異なるが、小説と甲乙つけがたいほど好きである。 妙に味があって、肩の力が抜けるほのぼのさがある。 1980年代前半に連載されたそうだが、今読んでも充分面白い。特に好きな話を。 聖バレンタイン・デーの切り干し…

ブラック・ジャック / 手塚治虫

主人公のブラックジャック(以下BJ)はいかにもな善人でもなく根っからの悪人でもない、その匙加減が絶妙。彼の良きパートナー・ピノコもとても可愛い。BJがピノコに見せる父性的で人間臭い面がまた良いと思う。特に印象的で好きな回を。 「ときには真珠のよ…

 コナコナチョウチョウ / 望月花梨

少年少女を時にダークに、時に官能的に描く望月氏の持ち味を堪能できる、初期作品集の表題作。 初読の時は主人公と同じ年頃で共感したが、今読むと懐かしい気持ちになる。 一方で未だに、この作品の雰囲気にちょっとドキドキする。 特に主人公が放課後、チロ…

 本当はちがうんだ日記 

歌人の穂村弘氏が描く、ちょっと不思議で力の抜けた日常のあれこれ。 本書で特に好きな話を。 愛の暴走族 自分の留守中、元恋人が合鍵でこっそり自室に入って金魚のえさだけ足して帰っていったという話を始め、愛ゆえの暴走例が幾つか紹介されている。 可笑…

 なくしてしまった魔法の時間

美しい日本語で語られる、少し不思議で懐かしい童話集。 安房直子氏のコレクション全7冊の1巻で、比較的初期の作品を収録。収録作品の中から、特に好きな話を。 きつねの窓 山で道に迷った「ぼく」が、一面の桔梗の花畑の中に「そめもの、ききょう屋」を見つ…

 センセイの鞄

ツキコさんとセンセイが共有するふわふわした時間と、淡く美しい四季の描写が心地よい。 穏やかで少し切ない、大人の恋を描いた一冊。 真面目で温和で礼儀正しく、元教え子にも敬語を使うセンセイがいい。 古き良き時代の教師、といった風情があり、古風で上…

 お迎えです。/ 田中メカ

「お迎え」を行う極楽送迎(GSG)社員、社員にスカウトされた主人公のバイト大学生と、彼らが出会う死者たちをオムニバス形式で描く。 コメディなのだけれど、ちょっと切なくて良いモノローグが幾つも出てくる、あたたかいストーリー。 ゲストの幽霊たち…

 海辺のカフカ

家出をした15歳の少年が様々な人々に出会い、小さな図書館に身を寄せ、恋を知り、ある森へも足を踏み入れる。 幾つもの謎(或いは仮説)や、平行して進む星野青年やナカタさんのストーリーなど、引き込まれる面白さがある。 印象的だったのは「佐伯さん」。 …

 ないもの、あります

よく耳にするけど見たことは無い。 そんな「ないもの」たちを披露し、読者の手元へ贈る一冊。 特にストーリーはないがウイットのきいた文とイラストに思わずにやりとさせられ、楽しんで読める。 気になった「ないもの」を。 相槌 3種類あり、大は「まったく…

 ニューイヤー(『マダムとミスター』所収)

前向きでタフな未亡人グレース、いつも頑固で真面目な割に「清く正しいだけではつまらないですから」と意外な事を言い切る執事グラハム、恋愛関係になりそうでならない二人の微妙が関係も良い。 本作は、新年を迎える瞬間にグレースが長いお祈りをする理由を…